●Episode.1 『陽乃衣と天狗と強くなること』
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 陽乃衣はずっと泣いていた。
 屋敷を離れ、たくさんいた姉妹と離れて暮らすことになって。
 なにより、大好きな兄と離ればなれになってしまった。
 もう、一緒に遊んでくれる優しい兄はいない。
 もしかしたら、二度と会えないかも知れない。
 兄は別れ際に言ってくれた。
「いつか俺がみんなを迎えに行く。だから、それまで強く生きるんだよ」
 その言葉を、信じていたい。
 信じることしかできない。
 でも、いまの自分になにができるんだろう。
 それがわからなくて、陽乃衣はずっと泣いてばかりだった。

 陽乃衣を引き取ったオババは、泣いてばかりの陽乃衣を可愛そうに思っていた。
 山の中とはいえ、同じ年頃の子供もいないわけじゃない。
 友達でもできれば、少しは明るさを取り戻してくれるかと思ったのだが、寂しさには勝てないらしく、遊びに出ることは少なかった。
 ぼんやりと、屋敷のあったほうを眺めては、背中を丸める陽乃衣に、オババも心を痛めていた。
 そんなある日、オババが昼食の支度をしていると、縁側から陽乃衣の悲鳴が聞こえた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁっっ! て、天狗が出たあぁっ!」