●Episode.1 『陽乃衣と天狗と強くなること』
そして季節は巡り、旅立ちの日。
支度を済ませた陽乃衣をオババと天狗が見送る。
天狗との修行のおかげで、本来の明るさを取り戻した陽乃衣は、兄のにおいを感じて、会いに行くことを決意した。
「オババ! 天狗さん! いままで、本当にお世話になりました!」
「気をつけてね、都会はいろいろ怖いって聞くから……」
泣いてばかりだったころに比べて、陽乃衣は身も心も鍛えられ強くなった。
それでも、心配なのには変わらない。
どれだけ強くなったとしても、オババにとってはかわいい女の子なのだから。
「大丈夫やろ、陽乃衣は俺の弟子やねんで? 例えトラックが突っ込んできても平気やわ。な?」
「うんっ! 大丈夫! 鍛えてもらったこの体があるから! 己、絶対に負けない!」
「その意気やよし! よっしゃ、餞別や、コレ持っていけ」
渡されたのは、天狗の羽織っていた学ランだった。
ところどころすり切れたそれは、陽乃衣にとっても天狗と共に過ごした思い出が詰まっている。
「おー、よう似合ってるわ。どや? 来てるだけでパワーが溢れてくるやろ?」
「うん、ありがとう! この学ランに恥じないように、己頑張る!」
「ほれ、みんなにもちゃんとお別れしとき」
そう言って天狗が後ろを向くように促すと、そこには陽乃衣の友達、山の動物たちが見送るように見つめていた。
彼らもまた、修行の合間に出会った、陽乃衣にとって大切な友達だ。
「みんな……ありがとう! 大好きだ! 行ってくる!」
山中に響くほどの大きな声で、陽乃衣はみんなに別れを告げると、兄に再会するための本当の一歩を踏み出した。
大切な約束、それを守っていたんだよと、大好きな兄に伝えるために。
Episode.1 『陽乃衣と天狗と強くなること』 〜fin〜