●Episode.3 『ましろとゲームとおかえりなさい』
「ねぇ、動かしちゃっても大丈夫かなぁ?」
「そーっとやれよ、そーっと……」
「よくこんな格好で眠れるよねぇ……もぉ、かわいいなぁっ」
「あっ、いまのうちに写メ撮っておこっ」
話し声でましろが目を覚ますと、自分の周りを舎妹たちが携帯電話のカメラを構えながら取り囲んでいた。
「んにぅ……」
寝ぼけ眼をこすりながら、頬に触れる。
ポリバケツから顔を出した状態で寝てしまっていたせいで、頬にあとがついてしまっていた。
「ありゃ、起きちゃった……」
「あんたが騒ぐからよ、もう……せっかくのシャッターチャンスだったのにぃ」
誰かが明かりをつけてくれたのか、部屋は明るい。
眠る前に感じていた寂しい気持ちが消えたのは、そのせいなのかな……。
ちがう、それだけじゃない……。
「みんな……」
「あっ、ごめんましろちゃん……」
「ご、ごはんすぐ準備するからっ」
「みんな!」
「はいっ!?」
いつもより、ちょっとだけ大きい声を出したましろに、みんなが姿勢を正す。
ましろは、神妙な面持ちの舎妹たち、一人一人の顔をじっくりと確認するように見回すと、
「おかえりなさい」
と、だらんとふやけた表情でそう言った。
ましろの言葉に、みんなはぷるぷると震えだし、やがて耐えきれなくなって、
「た、ただいまぁっ! ましろちゃああぁんっ!」
まるで人気のマスコットに接するかのように、我先にとましろを抱きしめ頬ずりをはじめた。
もみくちゃにされながらも、ましろは無抵抗でされるがままだ。
みんなを止めるのがめんどうだから、というわけじゃない。
そうされることを、ましろも嫌いじゃないのだ。
ましろは自分の気持ちを語ったりしない。
それは方法を知らないから。
難しいことはわからないし、めんどうなことも多い。
ただできれば、なにもせず、働かず、楽しいことだけをしていたい。
一人じゃなく、みんなと一緒に。
おかえりを言うと、ただいまと返ってくる、それだけでとても温かい気持ちになれるんだから。
「そうだ、今日はましろちゃんにとっておきの話しがあるんだ!」
「なにー?」
「実は……」
舎妹の話を聞いたましろは、グループのリーダーとして、ある命令を一枚の紙にしたためた。
命令を受けた舎妹たちの行動は早かった。
あっという間に荷物をまとめ、新しい住居への移動の段取りを進める。
その間、ましろがしていたことと言えば、やりかけのゲームのレベル上げぐらいだろうか。
それが許されているのは、ましろがみんなに愛されているからに他ならない。
むしろ自分からなにかをすると言い出したら、グループ全員が混乱して機能停止してしまうかもしれない。
適材適所、ということなのだ。
こうして、東北を仕切っていた最強のグループは動きはじめた。
ましろの出した命令、それを完遂するために。
まだ荷物のほどかれていない新しい部屋には、そのときの命令書が張り出されていた。
「おにーに、おかえりなさいをいう」
これが今回彼女たちに課せられたミッションだ。
Episode.3 『ましろとゲームとおかえりなさい』 〜fin〜