●Episode.3 『ましろとゲームとおかえりなさい』
部屋が、どんどん暗くなっていく。
壁のスイッチまでは二メートルもない。
でも、その距離はましろにとって、地球と太陽の距離ほど遠かった。
薄暗くなっていく部屋で、ゲーム画面だけがましろを照らす。
そういえば、お腹も空いてきた。
空腹は、どこか寂しい気持ちにさせる。
「まだかな……みんな……」
ゲームは楽しい。
でも、一人は寂しい。
暗いのは不便。
でも動くのはめんどい。
ましろなりの心の葛藤。
そんなときに思い出すのは、やっぱり遠い記憶の兄の姿だった。
兄は、優しかった。
温かい声は、心の中の一番大事なところで、ましろのいまを支え続けている。
耐えがたい別れがあったときも。
自分を見失って、すべてを壊してしまおうと思った、あの夜も。
必ず迎えに行くと言ってくれた、あの言葉を信じているから。
でも、こういうときは、少し不安になる。
誰もいない部屋で、一人で帰りを待っているときは。
もしかしたら、誰も帰ってこないんじゃないか。
もしかしたら、誰も迎えにこないんじゃないか。
部屋の暗さに心を浸食されて、寂しい気持ちが膨らんでいく。
嫌だな、そう思っているのに、できるのはじっと待つことだけ。
お留守番は、家にいないとお留守番にならないから。
だから、ましろはなにもしない。
お腹が空いても、ずっと待ってる。
お菓子を取りに行くのはめんどうだし、舎妹にも怒られちゃうから。
約束は、守るから約束なんだ。