●Episode.2 『影那と舎妹と名前』
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 周防院蓮華のことは、舎妹に話しを聞くとすぐにわかった。
 神奈川を拠点とした一匹狼で、特徴はあの長い銀髪。
 鋭い眼光と足技が得意で、百戦錬磨の強者だとか。
 名前が通り、実際の実力もある彼女は自分のグループを持っていないという。
 自分なんて、知らないうちに仲間が増えていくのに、どうしてだろう。
「一人でいること、それに理由があるのかなぁ」
 楽しいこと主義の少女には、周防院蓮華の孤独主義は理解できるものではなかった。
 だからこそ、よりいっそう興味をひかれる。
 強いだけじゃなく、女の子としての魅力に溢れているのに、一匹狼でいる理由、それを知りたくなったのだ。
 あとから思えば、少女はこのときすでに、周防院蓮華に惹かれていたのかもしれない。

 少女の魅力のひとつに、人並み外れた行動力がある。
 周防院蓮華に負けた翌日から、少女は密かに彼女を調査することにした。
 学校から出て自宅に戻るまで、周防院蓮華の後をつける。
 有り体に言えば、ストーカーみたいなこと。
 何日か続けていくうちに気づいたのは、周防院蓮華は、内面もとてもかわいい女の子だということだった。
 例えば、一人歩く帰り道、周防院蓮華は一匹の野良猫を見かけた。
 彼女は鋭い眼光で辺りに視線を配る。
 誰もいないことを確認すると、彼女はそっと野良猫に近寄り手を伸ばした。
「ふふっ、最近よく会うなぁ。この辺がお前のナワバリなのか?」
 と、さっきまでとは打って変わって、優しそうな表情を浮かべながら猫を撫でていた。
 それを隠れて見つめる少女。
「なにこの乙女チックな生き物……萌えるんですけどっ!」
 周防院蓮華の意外な一面はそれだけに止まらない。
 ファンシーショップの前を通れば、店に入るかどうか散々迷ったあげく、がっくりと肩を落としてその場を立ち去ったり。
 チョココロネを買って食べている姿なんて、下手な小動物よりも攻撃力の高いものだった。
 そして、なにより驚いたのは、あの強さには理由があったこと。
 人気のない場所で、彼女は毎日トレーニングを繰り返していた。
 数時間、たった一人で。
 それだけ努力をしている相手に、自分たちが敵うわけがない。
 興味は、次第に好意に変わっていく。
「友達に、なれないかな……」
 不意に口に出た言葉に、自分でもはっとする。
 そのとき、少女の携帯電話が鳴った。
「河川敷でよそのグループとケンカですっ! リーダー! 人集めて応援に来てください!」
「えぇー、そんなの自分らでなんとかしなよー」
 少女に、舎妹から応援要請が入る。
 今週だけで、もう何度目だろう。
 少女は悩んでいた。
 たくさんの仲間と一緒に遊ぶのは楽しい。
 でも、自分がリーダーであることで、楽しいことを邪魔される。
 望んだ立場ではないだけに、このところそれが煩わしく思えてきた。
「仲間ってなんなんだろ……」
 複雑な思いを抱きながら、少女は道すがらあることを心に決める。

 それから数週間後、少女は周防院蓮華を呼び出した。