●Episode.2 『影那と舎妹と名前』
「あたし個人的な話しをしたかっただけなんだけどなぁ……」
 少女が周防院蓮華を呼び出したという話しは、グループ内で一気に広まった。
 噂は尾ひれがつき、はじまりとは姿を変える。
 リーダーが、周防院蓮華を潰しにかかってる!
 話しを聞いた仲間たちは、その場に立ち会おうと、互いが誘い合って現地へ向かった。
 その結果が、多対一の現状だ。
 周防院蓮華を揶揄する声が、そこかしこから飛び交う中、少女はそれをいさめるように手を上げた。
 見つめられるだけで切れてしまいそうな、周防院蓮華の視線を正面から受け止める。
「ケンカなら早くしよう……簡単には負けてやらないからな」
「だから、そうじゃなくてね……まあ、この状況じゃ勘違いされても仕方ないと思うんだけどさ……」
 煮え切らない態度に、周防院蓮華は苛立つ。
「ケンカじゃないならなんだっていうんだ」
「そ、それは……」
 大きく息をすって、少女は周防院蓮華を見据える。
 そして、
「あたしと、友達になってくださいっ!」
 少女以外、その場にいたすべての人物の時間が止まる。
 それもそうだ、少女を除くみんな誰も、予想していなかった事態なのだから。
「はあぁっ!? な、なに言っちぇ……なに言ってんだお前っ! ととと、友達とかっ……意味わかんねーしっ!」
 顔を真っ赤にし、さっきまでの強面からは想像できないくらいに取り乱す、周防院蓮華。
「あはっ、やっぱりカワイイっ! ねぇねぇ、あたしと友達になってよぉ」
「なっ……なにをわけのわかんねーこと……そ、そんなの無理に決まってんだろ!」
「なんでなんで、いいじゃーん。友達になりたいのー! 友達が無理なら、舎妹でもいいからぁー!」
 子供のように駄々をこねる少女に、取り乱したままの周防院蓮華。
 少女の言葉に、我に返ったのは仲間たちのほうだ。
 リーダーである少女が周防院蓮華の舎妹になるということは、その下である自分たちも彼女の傘下に入るということだ。
 いくらリーダーとはいえ、一存でそんなことを決められてはたまらない。
 当然、少女にグループの仲間から不満の声があがる。
 ここに集まった人間のほとんどは、あの周防院蓮華を潰すつもりで来ていたのだから。
 そんな仲間たちに、少女はあっさりと言い放った。
「そんなに嫌なら、グループ解散しようよ。あたしも正直しんどかったし、丁度いいでしょ?」
 まったく悪びれる様子のない少女に、仲間たちはそれ以上なにも言えなくなってしまった。

 こうして、関東一と言われるまでに膨れあがったグループは、間接的ではあるが周防院蓮華によって解散させられた。
 このことは噂となってすぐに広まり、周防院蓮華の名をさらに轟かせることとなる。
 瓦解したグループは更なる揉めごとを生み、事の発端である少女たちも巻き込まれていくのだが、それはまた別のお話。