●Episode.3 『ましろとゲームとおかえりなさい』
出かけるのは面倒だし、できれば楽しいことだけをしていたい。
世の中はとても便利で、家にいるだけで、異世界へ冒険に出かけることができる。
そこでは、友達も作れるし、なかには恋人を見つけて結婚した人だっている。
肉体の拘束から解き放たれた魂は、電子の海の中を限定的に泳ぎ回ることができるんだ。
退屈に、理由はない。
めんどくさいことに、めんどくさいと思う理由がないみたいに。
だから今日も、ましろはお家でごろごろ。
ポリバケツのふちに顎を乗せて、モニター画面のキャラクターに、自分の魂の半分を預けていた。
画面には、ましろが操作する弓使いが、ギルドの仲間五人と談笑していた。
ちなみに、こっちのキャラクターはサブアカウントで、デザイン重視の装備をしている。
本アカウントのキャラは、いろんな意味でガチすぎて、このパーティの雰囲気に合わないから。
話題は、今日の狩り場の打ち合わせ。
リアルで会ったことはないけれど、彼らはとってもいい人たちだ。
「先週のアップデートで追加されたモンスターが、高原のほうで出るらしいよ」
「らしいね。でも、雑誌で見たけど、推奨レベル超高かったよ」
「むりwwwおれらのレベルじゃwww」
「みにいくだけでもいいんじゃない?」
「よーし、今日は新モンスター見学ツアーだ!」
「おー」
優しい人たちと一緒に遊ぶのは、兄に遊んでもらっていたときに似ている。
雰囲気に身を任せて、みんなに着いていけば、それだけで楽しいことが、向こうからやってくるから。
自然と、甘えることができるから。
屋敷で、兄やたくさんの妹たちと一緒に暮らしていたときみたいに。
賑やかで、とても温かい気持ちになれる。
なにもクエストをクリアすることだけが、ゲームの楽しみ方じゃないのだ。