●Episode.4 『詠と子猫とヒト』
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 夜中から降り始めた雨は、朝になってもやむことはなく、
夕方になってもしとしとと街を濡らし続けていた。
 お気に入りのブランドの傘をさして、詠はいつものように、一人帰り道を歩く。
 雨降りは嫌いじゃない。
 雨音はノイズに似ていて、いろんなものを曖昧にしてくれる。
 けぶって、景色が滲んでしまうように、感じられることもあやふやで。
 多少電波の調子が悪いぐらいが丁度いい。
 敏感なのも考えもの、なのだ。
 重たい雲が覆い尽くした空のように、どんよりとしたこの気持ちも、きっとあの人がそばにいたら気にならないのに。
 兄様のそばにいられれば、それだけで。
 感じることができれば、それだけで。
 こんなことばかり考えるのは、やっぱり恋しいから。
 装うことに慣れていても、自分の心は偽れないもの。
 ため息ぐらい、つきたくなる。
「おにぃちゃぁん……」
 そう聞こえてはっとなる。
 思わず自分の口から出てしまった言葉なのかと思ったが、どうやら違ったみたいだ。
 声の主、いや正確には声ではなかったのだけど、消え入りそうな言葉の発生元は、目の前にいた。
 雨でずぶ濡れになったまま、ふらふらとなにかを探して歩く子猫。
 震えているのは寒いからなのか、それとも心細いからか。
「どうしたんすか?」
 しゃがみ込んで、傘を傾ける。
 声じゃなく、電波で伝えて。
 驚いて顔を上げた子猫は、泣きそうな顔をしていた。