「ふむぅ……一緒に生活してたお兄ちゃんとはぐれちゃったと……
それで雨の中、濡れるのも構わず探し回ってたんすねぇ」
頷く代わりに、子猫は詠を見つめた。
「不思議っすか? 詠とお話しできるの。それもそうっすよねぇ、普通猫とヒトは通じ合えないもんっすから」
そっと、子猫の頭を撫でる。
安心しているのか、子猫はごろごろと喉を鳴らして、気持ちよさそうに目をつぶっていた。
「ふふっ、詠のふぃんがーてくにっくにメロメロっすねー」
詠の電波を感じて、子猫がつぶらな瞳を向ける。
「ヒトって、もっと怖いものだと思ってた」
「そうなんすか?」
「うん、だって……いつもおにぃちゃんが言ってるの、ヒトを信じちゃいけないって……」
子猫の言葉に、詠は思わず笑みを浮かべる。
「それはお兄ちゃんの言うとおりっすよ。ヒトを信じても、なーんにもいいことなんてないっすから」
でもぉ、と子猫は首をかしげる。
「おねぇちゃんはヒトだけど、とってもあったかいじゃない」
言われて、詠はまた苦笑いする。
ヒトにそんなこと、言われたことなんてなかったから。
話し込んでいるうちに、雨はあがっていた。
それでも、どんよりとした曇り空には変わらない。
そのうちに子猫が、詠の手の中でそわそわしはじめる。
きっとはぐれたお兄ちゃんが気になってるんだろう。
思い出されるのは、記憶の奥に大事にしまっている、あの温かい声。
自分がこの子の立場だったら、きっと同じようにじっとしてられないだろう。
詠は子猫を抱えたまま立ち上がる。
「雨もやんだし、特別に詠も一緒に探してあげるっすー」
さっきよりあったかく感じるのは、きっと子猫を抱いているからだろう、
詠はそう思った。