●Episode.4 『詠と子猫とヒト』
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 子猫に話しを聞きながら、辺りを見回しつつ歩いて行く。
 この子のお兄ちゃんは、耳から尻尾の先まで真っ黒の、黒猫らしい。
 はぐれたときの状況は、商店街の裏路地で、ご飯を取りに行ったお兄ちゃんを待っていたら、飲食店の店員に見つかって追い払われたらしい。
 しばらく経ってからその場所に戻ってみたものの、すでにお兄ちゃんの姿はなかった。
 それからずっと探し歩いていたらしい。
 そんな中、詠と出会った。
 詠の足で歩けば商店街までは数分の距離だけど、子猫の小さな体ではとても長く感じただろう。
 ましてや、ずっと一緒だったお兄ちゃんのいない状態じゃ、心身共にとても疲弊したはずだ。
 詠は、なんとなく、この子猫を他人とは思えなくなっていた。
 商店街への道すがら、すれ違うカラスや猫に話しを聞いてみる。
 その中のひとつに、有力な情報があった。
「ああ、あの黒い猫なら向こうの空き地で見たぞ。なんかヒトと一緒だったなぁ」
「ホントっすか!?」
「おにぃちゃんも、おねぇちゃんみたいないいヒトと一緒なのかな」
「ん? いや、とてもそうは見えなかったけどなぁ……」
 嫌な予感がして、詠は走り出した。

 面倒なことになった、と彼は思った。
 妹を探して歩いていたら、タチの悪いのに見つかるなんて……だからヒトってのは好きになれない。
 どいつもこいつも、くたばっちまえばいいのに。
 俺の牙がもう少し鋭かったら。
 俺の爪がもう少し大きかったら。
 こんなやつら、切り刻んでやるのにっ!
「なぁ、黒猫って不吉なんだろ? 俺たちでやっつけちゃおうぜ!」
「誰が一番ダメージを与えられるか勝負な!」
「石一個ぶつけるごとにポイントってことで!」
 こいつらがなにを言ってるか、彼にはわからなかった。
 でも、ひとつだけ確信できる。
 言葉を理解できなくても、こいつらがろくでもないってことは、あの気持ちの悪い口から発せられる耳障りな音で感じられた。
 向こうはヒトが三匹、上手く逃げられるか……。
 大丈夫、こいつらはデカイが、スピードは自分のほうが上だ。
 逃げるだけならなんとでも……。
「おにぃちゃんっ!」

「わわっ、ちょっとぉっ!?」
 教えられた空き地に着くと、子猫はいきなり詠の腕から飛び出した。
 空き地には、三人のいかにもな悪ガキがいて、子猫はそっちへまっしぐら。
 よく見ると、悪ガキたちの足の隙間から、一匹の黒猫が見えた。
「バカッ! こっちに来ちゃダメだ!」
「お、おにぃちゃん……でもぉ……」
 駆け寄る子猫に、黒猫が吠える。
「やっぱり……お兄ちゃんはバカなヒトにからまれてたっすか」
 やれやれ、とため息ひとつ。
 それは子猫がお兄ちゃんと再会できた安堵と、目の前のバカに対してのものだった。
「クソッ……」
 黒猫は素早い動きで子猫の前に立ちはだかると、歯をむき出しにして威嚇しはじめた。
 その対象は、悪ガキたちと、詠。
「忌々しい人間め、ヒトなんか最低だっ! 妹には触れさせないからなっ!」
「ま、待っておにぃちゃん! あっちの女のヒトは悪いヒトじゃ……」
「いいから! ここは俺に任せて、お前は逃げろ!」
「で、でも……」
「一緒に逃げたらいいっすよ。詠のことなら気にしないで。せっかく会えたのに、また離ればなれになったら大変っす」
 微笑みながら、詠は二匹に電波を飛ばした。
「あっちのバカは詠が教育しとくっすから。ほら、早く行った行った」
「な、なんなんだあの人間……どうして……」
「おにぃちゃん……」
「わ、わかってる! 今度ははぐれるなよっ!」
 黒猫はぐっと身をかがめたかと思うと、しなやかな動きで空き地の出口へ向かった。
 子猫もそれに必死についていく。
 それを見て、悪ガキたちは、待てとか、逃げんなとか言っていた気もするが、
詠には届かなかった。