●Episode.5 『かな子と家事と手紙』
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 夢じゃないのかと思った。
 三枚の便せんに書かれた文面を、何度も何度も読み返す。
 もちろん内容は、最初に読んだときと一語一句変わることはない。
 次に、頬をつねってみた。
 痛くない。
 いや、痛いけど、痛みよりも気持ちの高まりのほうが何倍も勝っていて、
それどころじゃない。
 かな子が受け取ったエアメール、その書き出しはこうだ。
「そっちに帰ることが決まったんだ」
 その一文を見つめるだけで、勝手に視界が滲んでいく。
 涙がこぼれそうになった瞬間、手紙が濡れてしまわないように、ぐっと顔を上げた。
 泣いてちゃいけない。
 嬉しいことなんだから、泣いちゃダメだ。
 でも……。
 嬉しいことでも、涙は流れてしまう。
 離ればなれになったあの日から、ずっと欲しかった知らせがここにある。
 この日を、ずっと待ち続けていた。
 この日を信じて、いままで暮らしてきたんだ。
 こみあげてくる気持ちは言葉にできず、涙となって溢れ出るばかり。
「いつか俺がみんなを迎えに行く。だから、それまで強く生きるんだよ」
 思い出されるのは、兄が別れ際に伝えた言葉。
「そうだ、しっかりしないと……」
 泣いてばかりだったあの頃とは違う、それを兄さんに知ってもらうんだ。
 パチンと、両頬を叩いて、溢れそうな涙を押し戻す。
 それから、エアメールを丁寧にたたむと、封筒に入れて、
兄専用のレターボックスにしまった。